[9月の創発2010レビュー]


 アトリエ遊動天都に思うこと

斉藤ハルミ(野口体操教室メンバー) 


 アトリエ遊動天都で開催された「つながりしもの」展に出かけた。室内に展示された造形群に入った時、私は特別な思いになった。遠く過ぎ去った日のことが思い出されたのである。
 夜明け前の茅ヶ崎の砂浜…暗闇の中のかすかなざわめき…ある緊張感と静けさ…そして日の出と共に始まった永山聡子先生(現在、遊動天都主宰・早川聡子先生)による和紙六百畳敷きに般若心経を描くパフォーマンス…それらの光景が脳裏に次々と浮かんできたのである。
 あのときの和紙が、揉まれ、裂かれ、千切られ、染められ、縒られ、編まれ、繋がれ…早川先生の手によって自在に変化しながら、今、この場に造形を成している。長い時間を経てなおどっしりと、すっきりと、祈りにも似た神秘的なオーラを放っている。
 以前訪れた時と異なり、遊動天都の「空間が変わった」と率直に思った。
 私は、野口体操を通して早川先生と出会った。そして、美術家として、又、野口体操の教師でもある先生から、今日までたくさんの教えを受けてきた。思えば、体操を通して数々の作品にも触れさせていただいた。ある時は制作中の絵の前で、ある時は準備中の素材やその匂いの中で、完成された作品の前で…何枚ものすばらしい日本画に囲まれて…長年野口体操を続けてきたことを思う。
 さりげなくデッサンされたかに見えた絵がある時、今、咲き揃うかのような蘭の花々の絵となり姿を現わす。
 一枚の和紙が、人の手が加わることで、ふんわり柔らかく、暖かく、優しく、懐かしさをたたえて姿を変える。和紙の魅力の奥深さを知ったことも大きな学びであった。そして、それらの多くは、野口体操と相通じるものであった。早川先生の今日までの教えの道程(みちのり)は遊動天都そのものだったのではないかと思うのである。
 北本という地域の一角に「遊動天都」という老若男女が集う学びの場がある。日常の中で人々が集まり、絵を描き、自分達の言葉で芸術を語り合う場がそこにある。そして、そこでは折々に美術を中心にした催しが開かれている。
 そういう時間や空間が身近に普通にある日々、これはとてもステキなことである。こういうことを贅沢というのだろう。
 遊動天都に集う人々が美しいものを創造し心豊かな時間を過ごせることを願いながら、その繋がりが波紋となり広がっていくことを思う。
 遊動天都は、私の中のいまだ開かれていない扉をトントン…と叩いてくれる。そう思うと、これからが楽しみになってくるのである。

[2011/1/22]



[9月の創発2010]
【№19】

[会場写真]
「早川聡子展」会場写真