[9月の創発2010レポート]

■今年の「創発」小川町編


 小川町に行き、「9月の創発2010」に参加することになっている伊東孝志さんと加茂孝子さんを訪ねた。
 昨年、小川町では、伊東さんが自らのアトリエを使った個展を開き創発プロジェクトに参加した。かつてカレー工場だった建物を満遍なく使い切るこの展示は、会場を訪れた人たちに新鮮な驚きと感動を与えた。
 その後、伊東さんはバイクで町の周辺を散策するうち、とても風情のある建造物を見つけたと言う。そこで新たな展開として、そこを使った展覧会を計画した。町外れの農村部にあるこの施設は、ときおり地域住民の集まりに使用されるだけで、不特定多数を集めるような催しは行われたことがなかった。
 管理者への要請を再三繰り返し、とりあえず会場の使用は認められたものの、不特定多数に対する広報は遠慮してほしいと言う。案内状を作って知り合いに配るのはよいが、マスメディア等での告知はできないのだ。そこで問題となったのが創発マップへの掲載のしかたである。
 これまでの活動の中で、伊東さんは地元での理解者を何人か得ている。そこで彼らに協力を依頼し、連絡を受けたら駅まで迎えに行ってもらうという方法を考えた。マップには連絡先だけ掲示しておき、電話をすると展覧会の垂れ幕を付けた車が迎えに来てくれるという手はずだ。なかなか情のこもった受入れ態勢になりそうだ。
 出品者は伊東さんの他、新井淳一さん、小林耕平さん、滝澤徹也さん、柳健司さんの5人を予定している。新井さんと柳さんは昨年、本庄にあるKODAMA ART HOUSEのオープン・スタジオで創発に参加している。創発の参加者が個々に結びき、新たな催しに展開していくというのも、創発をやっていく上での楽しみのひとつである。
 一方で加茂さんは、小川町和紙体験学習センターでの個展で「9月の創発2010」に参加する。加茂さんは飯能に住んで和紙を使った造形作品を制作しているが、作品の制作やワークショップ指導のためこのセンターには定期的に出入りしていたらしい。
 ここは町内に和紙産業を普及するため、昭和初期に建てられた洋館風の建物である。現在は主に、和紙製作を希望する人の利用に供したり、子どもたちに向けた和紙づくりの体験教室を開いたりしている。時代が経るに従い床には上張りがされ、壁が塗り直され、部屋には物が積み重なっていった。長い間、歴史がそのまま取り残された物置のような場所になっていたらしい。
 ここをもっと一般の人が利用しやすいよう整備しようということで、昨年、全面的な改修計画が立てられた。しかし専門の業者に頼むと予算が嵩み、さらにすべて新しい建材で造り変えられてしまう。そこで、できるだけ元の姿に忠実に復元するという条件で、伊東さんがこの作業を引き受けることになった。
 今年に入って着工し、4月いっぱいまでかかって作業は完了した。現在は白い壁の下に板張りの廊下が一直線に抜け、角部屋には明るい陽の差し込む応接室がみごとに甦った。このリニューアルに伴い、復元された部屋を使って定期的に展覧会をやろうということになり、その第一回展として加茂さんの個展が行われることになった。これもまた伊東さんの労の産物だったのだ。
 実は、私は去年の創発の期間中、飯能でやっていた柳井嗣雄さんの展示会場でたまたま加茂さんと会った。そこで「来年、参加して!」と頼んだのだが、それがこのように小川町での展示へとつながっていくというのも、予期しなかった嬉しい展開である。

[2010/7/11 松永]



[9月の創発2010] 【№21】
【№24】

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